<水素ステーションの現状と課題を俯瞰する>
燃料電池車はトヨタ自動車が12月15日、静かに販売を開始した。2015年度まで
400台の販売予定であるが、上積みを計画しているようだ。それに呼応して水素
ステーション設置の動きも活発になっている。
私自身、ここ数か月、水素ステーション機器に関してなぜ高額になるのかを中心に
企業と取材や意見交換を行ってきた。まだ初期段階ではあるが、そこから見えた現状や
課題について、自分なりに整理してみたい。
1.製造現場のモチベーションは高い
取材して少し驚いたことである。水素ステーション機器を製造する企業は、
モチベーションの高い企業が多いという印象だ。長い間、実証試験などの機器ばかりを
作ってきたからかもしれないが、ようやく量産機器を作る機会が到来したと思っている。
現実にはまだまだ手作りであろうが、高い気概をもって取り組んでいる。
2.反面、もどかしさも見える
一方で、もどかしさも垣間見える。つまり、全力疾走しようにも、いろいろと条件が
つき、なかなか走れないもどかしさである。一つは水素ステーション構成が複雑で、
選択肢が多いことだ。
オンサイト方式とオフサイト方式の違い、圧縮機であれば差圧充填方式と直充填方式の
違い、ブースター必要の有無等々である。
また規制も多い。水素脆化を防ぐための規制や、設置場所の規制(各機器と敷地境界
もしくは道路境界から8m以上の距離が必要など)など、安全を担保するためにとはいえ、
かなり多い。
さらに、部品の事前申請制度もある。水素ステーションの設備機器は、高圧ガス保安
協会にて、事前申請を行い、認可を得る必要がある。つまり、場所を特定し、仕様が
固定しないとモノが作れない。
一般の自動車部品のように、一度に大量に作っておき、必要に応じて供給することが
できない。プラントであることは理解するが、価格低減を行う際のハードルとして
立ちはだかってしまう。
3.プラント機器だけに、価格低減はゆるやか
ヒアリング前は、初期段階は手作りであり高額であるものの、その後、量産体制が
取れれば大幅に価格低減が図れると想定していたが、どうもそんな感じではない。
先述の規制の話や、設置する土地のサイズ・条件などにより、結局、一品一葉に
ならざるを得ないのではないか。ある意味、水素ステーションはどこまでいっても
手作りプラスαなのである。
そうなると、価格は急激に低下するというより、ゆるやかにしか下がらないように思える。
天然ガス用圧縮機などでは、数年で3割程度下がり、その後はほぼ一定しまったとも仄聞
している。結局、2020年で3割~4割低下が現実的なラインであろう。
4.第一世代と次世代をどうマッチングさせるか
最近、水素ステーションに関連する記事が多い。次々と新技術が開発されているようだ。
その中でも代表的なものは水素を常温・常圧で運ぶ有機ケミカルハイドライド法による
水素貯蔵輸送システムであろう。
それ以外にもアンモニアによる水素貯蔵輸送システムなど、いろいろなものが
研究開発中である。水素ステーションの難しさは、設備は一度作ると10~20年単位で
あるにも係らず、技術が開発途上にあり、次々と新しい技術が開発されることにある。
つまり、現在の第一世代と次世代技術をどうマッチングさせていくのかが問われる。
5.自動車メーカーの事業の定義
そして最大の懸念は、自動車メーカーの関与のしかたにある。現在は、水素ステーションは
自らのビジネスの領域外にあると定義し、あくまで間接的に支援する姿勢を取っている。
はたしてそうであろうか。実は電気自動車の初期にも同じようなシーンがあった。
「充電インフラは自動車メーカーの仕事ではない」と定義し、あくまで他企業に委ねるべきだ
と考える経営幹部がいた。しかし、それでは鶏と卵の関係が進まない。
なかなか充電インフラが立ち上がらないのだ。
結果的に、「充電インフラも自動車メーカーのビジネスの領域である」と定義し、幅広く
支援することで現在に至っている。例えば、販売会社に急速充電器を設置し、民間企業が
急速充電器を設置する際の支援などである。
おそらく、FCVも同様であろう。FCVを普及させたい企業が自ら投資して、販売会社の近くや
工場さらには主要な場所に水素ステーションを設置していかなければ、なかなか広がらない
のではないか。
P.F.ドラッカーは「事業の定義のなかには、長く生き続ける強力なものもある。だが、人間が
つくるものに永遠のものはない。とくに今日では永続しうるものさえほとんどない。事業の定義
も、やがては陳腐化し実行性を失う」という。
今回も、自動車メーカーが、「水素ステーションは自らのビジネスの領域である」と定義
できるか否かが、初期段階に於けるキーポイントではないだろうか。